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介護約8分

施設に入るとき、親のこれまでを職員に伝える——生活歴・好み・大切にしてきたことの残し方

親が施設に入ることになったとき、職員の方に親のことをどう伝えればいいのか。これまでの暮らし、好きなことや苦手なこと、呼ばれ方、大切にしてきたこと。家族が聞き取り、短い文章にまとめて渡すまでの手順を、やさしくまとめました。

施設に入るとき、親のことを職員にどう伝える?

この記事を読むと、親が施設に入るときに、親のこれまでの暮らしや好み、大切にしてきたことを、職員の方へどう伝えればよいかが分かります。結論から言うと、「聞き取る」「短くまとめる」「渡して、あとから足す」の三つの段階で進めれば、家族の負担を増やしすぎずに、親らしさを伝えることができます。

施設の職員の方にとって、入所したばかりの親は、まだよく知らない一人の方です。家族なら当たり前に分かっている「朝はまずお茶を一杯」「名字より下の名前で呼ばれるほうが落ち着く」といったことも、誰かが伝えなければ分かりません。

国の基準にも、こうした情報を大切にする考え方が書かれています。たとえば特別養護老人ホームの運営について定めた「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」では、入所に際して、その人の心身の状況や生活歴、病歴などの把握に努めることが定められています。家族からの情報は、その手がかりのひとつになります。

職員の方が知りたいのは、どんなこと?

施設の側が知りたいのは、病気や体のことだけではありません。どんな仕事をして、どこでどう暮らしてきたかという生活歴。起きる時間や食事の好みといった毎日の習慣。好きなこと、苦手なこと。どう呼ばれると安心するか。どんな場面で不安になりやすいか。そして、本人が誇りにしてきたことです。

本人の意思を尊重した支援について厚生労働省がまとめたガイドラインでも、支援する人が、本人のこれまでの生活史を家族関係も含めて理解することが必要だとされています。日常生活については、食事や入浴、着るものの好みなどを例に挙げ、これまで本人が過ごしてきた生活が確保されることを尊重するのが原則、と書かれています。

つまり、家族が伝える「親のこれまで」は、思い出話にとどまらず、新しい場所での毎日を、その人らしいものに近づけるための材料になります。

まずは「呼ばれ方」と「一日の過ごし方」から

何から聞けばよいか迷ったら、いちばん身近なことから始めましょう。ひとつ目は呼ばれ方です。名字か、下の名前か。「〇〇さん」と呼ばれるのがよいのか、長く続けた仕事にちなんだ呼び名があるのか。結婚前の名字のほうがなじみがある、という方もいます。

ふたつ目は、一日の過ごし方です。何時ごろに起きて、朝は何をするのが習慣か。新聞は読むか、テレビはどんな番組をよく見ていたか。お風呂は朝と夜のどちらが好きか、熱めとぬるめのどちらか。食事は何から箸をつけるか、食後にお茶は欠かせないか。

こうした小さな習慣は、本人も家族も「わざわざ言うほどのことではない」と思いがちです。けれど、新しい環境の中では、いつもの順番や好みが守られることが、落ち着いて過ごすための支えになることがあります。

好きなこと・苦手なこと・不安になりやすい場面は、どう聞く?

好き嫌いは、食べ物だけに限りません。好きな歌や音楽、季節の行事、手を動かす作業、外の空気に触れること。反対に、苦手な音や大きな声、暗い場所、人が多くてにぎやかな場、急に体に触れられること。具体的であるほど、職員の方はふだんの関わりに生かしやすくなります。

聞くときは、「施設の人に知っておいてほしいことはある?」と、本人に直接たずねてみてください。「特にない」と返ってきたら、「昔から、これだけは苦手だったよね」と、家族が覚えていることを挙げて確かめる形でもかまいません。

まとめるときは、本人が自分で話したことと、家族の見立てを分けて書いておくのがおすすめです。「本人の言葉:にぎやかな場所は疲れる」「家族から見て:知らない人が多い場では口数が少なくなる」。こうしておくと、受け取った側も、どこまでが本人の意思なのかを判断しやすくなります。

「大切にしてきたこと」「誇り」は、どう聞き出す?

職員の方と本人の会話のきっかけになりやすいのが、本人が大切にしてきたことや、誇りにしてきたことです。長く続けた仕事、子育てや家の切り盛り、地域でのお役目、得意だった料理や手仕事、ずっと続けてきた趣味などです。

聞き出すときは、「いちばん頑張ったことは何?」「人からよく頼まれたことは?」「若いころ、得意だったことは?」といった問いが入り口になります。答えにくそうなら、古い写真や賞状、愛用の道具を一緒に眺めながら話を聞くと、言葉が出てきやすくなります。

ここで聞けた話は、施設での会話の糸口になります。「若いころは和裁をしていたそうですね」と声をかけてもらえるだけで、本人にとって、新しい場所が少し居心地のよいものになるかもしれません。

聞いたことを、どう文章にまとめる?

職員の方に渡す文章は、A4一枚ほどに収めるのが目安です。忙しい中で何度も目を通してもらうものなので、長い文章より、見出しごとに短く書かれたもののほうが役立ちます。

見出しの例は、「呼ばれ方」「一日の流れ」「好きなこと」「苦手なこと・不安になりやすい場面」「大切にしてきたこと」「会話のきっかけになる話題」です。それぞれに二、三行ずつ書けば十分です。本人の口ぐせや言い回しがあれば、かぎかっこでそのまま書き添えると、人柄が伝わりやすくなります。

体の具合や飲んでいる薬、医療に関わることは、家族の文章で判断を書き込まず、施設から求められる書類や、かかりつけの医療機関からの情報に任せましょう。家族の一枚は、あくまで「暮らしと人柄」を伝えるためのものと考えると、書く内容を絞りやすくなります。

渡すときに気をつけたいことは?

施設によっては、生活歴や暮らしぶりを書き込む独自の用紙が用意されていることがあります。その場合は用紙を優先して記入し、書ききれなかったことを家族の一枚として添えてよいか、担当の方やケアマネジャー(介護支援専門員)に相談してみてください。

何を伝えるかは、できるだけ本人と一緒に確かめましょう。本人が知られたくないと思っていることや、家族の込み入った事情、お金や財産のことなど、暮らしの支えに関わらない話は書かないほうが安心です。渡した文章の控えは、家族の手元にも残しておきます。

一度渡して終わりにせず、面会のときに気づいたことや、職員の方から聞いた様子をもとに、少しずつ書き足していくのがおすすめです。施設での暮らしの中で、新しく分かる好みもあります。

入所の前後は慌ただしい。いつ、誰が聞く?

入所が決まってからは、手続きや荷物の準備で、ゆっくり話を聞く時間が取りにくくなります。できれば入所の話が出たころから、少しずつ聞き始めておくと慌てずに済みます。

きょうだいがいる場合は、分担するのもひとつの方法です。電話で話すことの多い人は好きな食べ物や音楽を、近くに住む人は一日の過ごし方を、というように、それぞれが聞きやすいことを受け持つと、一人に負担が偏りません。

本人が話したがらないときは、無理に聞き出そうとしないことも大切です。今日はひとつだけ、と決めて、話せる日に話せることを聞く。聞けなかったことは、家族が覚えていることで補い、「家族から見て」と書き添えておけば大丈夫です。

職員に渡す一枚と、家族に残す一冊

聞き取りを進めると、職員に渡す一枚には入りきらない話がたくさん出てきます。若いころの思い出、家族への想い、ふとこぼれた口ぐせ。そうした言葉は、施設に渡す書類とは別に、家族の記録として残しておく価値があります。

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施設での暮らしや利用できるサービス、手続きについては、本記事では一般的な考え方の紹介にとどめています。詳しくは、入所先の施設の担当の方やケアマネジャー、お住まいの自治体の窓口や地域包括支援センターにご相談ください。

参考

この記事について

想い伝 編集チーム(株式会社狼煙)。ご家族へ想いを残したい方に向けて、終活や家族の対話にまつわる話題を、やさしい言葉でまとめています。

公開日:

あなたの想いも、一冊の本に

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