親のふるさとの話を聞いて残す 生まれ育った町の景色を、言葉で書き留める
「お父さんが生まれた町って、どんなところ?」。親のふるさとの話は、聞いておかないと子の代には残りにくいものです。家の間取りや通学路を描いてもらう聞き方、一緒に訪ねる・地図や写真でたどる残し方、離れた事情への心づかいまで、ふるさとの記憶を言葉で残す手順をまとめました。
親のふるさとは、子どもがいちばん知らない場所
この記事を読むと、親が生まれ育った土地の話を聞いて、景色や暮らしの記憶を言葉で残す手順が分かります。結論から言うと、町全体を聞こうとせず、家・道・遊び場のような小さな場所を一つずつ聞くこと。そして、聞いた場所ごとに、親の言葉とあなたの感想を添えて一枚ずつ書き留めること。この二つで、話でしか知らなかったふるさとが、家族で読み返せる記録になります。
親が育った町のことを、子どもはほとんど知りません。進学や就職、結婚で親がふるさとを離れていれば、子にとっては、ときどき名前を聞くだけの土地です。親が話さなければ、どんな家に住み、どんな道を通い、何をして遊んでいたのかは、誰にも分からないままになります。
ふるさとの話は、親にとっても話しやすい題材です。「これまでの人生を聞かせて」と頼まれると構えてしまう親も、「子どものころ、どんな家に住んでいたの?」と聞かれれば、景色を思い浮かべながら話し始められます。場所の記憶には、家族や友だち、季節の行事が、自然と結びついているからです。
町全体ではなく、小さな場所を一つ選ぶ
最初から「ふるさとのこと」を丸ごと聞こうとすると、親も何から話せばいいか迷ってしまいます。まずは、話の入口になる場所を一つに絞りましょう。候補は、生まれた家、通った学校、学校までの道、よく遊んだ川や神社、買い物に行った店、お祭りの会場などです。
選ぶときは、親がすでに口にしたことのある場所から始めるのがおすすめです。「昔、あの川でよく泳いだ」「駄菓子屋のおばあさんがね」と、ふだんの会話にちらりと出てきた場所は、親の中で思い出がはっきりしている場所です。その一言を覚えておいて、「この前言っていた川って、どんなところ?」と聞き返すと、話がすっと続きます。
親が何度か引っ越している場合は、「いちばん長く住んだ町」か「いちばん思い出す町」を一つ選んでもらいましょう。全部を順番に聞かなくてもかまいません。一つの町の話がまとまってから次の町へ進めば、それで十分です。
場所が決まったら、最初の問いは「そこに立つと、何が見えた?」くらいの軽いもので十分です。見えたもの、聞こえた音、季節ごとの様子。景色を一つ思い出すと、その場所にいた人や出来事の話が、あとからついてきます。
家の間取りや通学路を、紙に描いてもらう
場所の話を聞くときに役立つのが、紙とペンです。「生まれた家の間取りを描いてみて」と頼むと、親は線を引きながら、自然と話し始めます。「ここが台所で、裏に井戸があった」「この部屋で、きょうだい四人が並んで寝た」。図があると、言葉だけでは出てこない細かな記憶がよみがえりやすくなります。
家の次は、通学路や近所の様子も描いてもらいましょう。家から学校までの道に、どんな店や田んぼがあったか。どこで友だちと待ち合わせたか。上手に描けなくてかまいません。丸と四角と矢印だけの、簡単な図で十分です。
描いてもらった紙は、そのまま残しておいてください。親の手で引いた線や、書き込まれた文字そのものが、一つの記録になります。聞きながら分かったことは、あなたが横に小さく書き添えておくと、あとで読み返したときに分かりやすくなります。
声で答えるほうが楽な親もいます。描くのを面倒がるようなら、あなたが描き役になり、「台所はこっち?」と確かめながら一緒に仕上げる方法もあります。間違えたところを親が「そこじゃない」と直してくれるやりとりから、話が広がることもあります。
一緒に訪ねる。訪ねられないときは、地図や写真でたどる
機会があれば、親と一緒にふるさとを訪ねてみてください。実際にその場所に立つと、親の口から思いがけない話が出てくることがあります。「この坂、昔はもっと急だった気がする」「ここにあった店が、なくなっている」。景色の変わったところも、変わらないところも、親の記憶を呼び起こす手がかりになります。
訪ねるときは、予定を詰め込みすぎないことが大切です。何か所も回ろうとすると、親も疲れてしまいます。一日に一つか二つの場所を、ゆっくり歩くくらいがちょうどよいでしょう。その場の景色を写真に撮っておくと、あとで書き留めるときに役立ちます。
ふるさとに親戚や昔なじみが住んでいれば、親と一緒に会いに行くのもよい機会です。親の子どものころを知る人の一言から、親自身も忘れていた話が出てくることがあります。相手の都合もあるので、訪ねる前には連絡を入れておきましょう。
遠くて行けない場合や、親が長い移動を負担に感じる場合は、家で地図を広げて話を聞く方法もあります。紙の地図でも、スマホやパソコンの地図でもかまいません。町の名前や川の形を一緒に探していくと、「この辺りに家があった」と、親が指をさしながら話してくれることがあります。
昔の写真が残っていれば、それも一緒に見てみましょう。写っている建物や道から、その場所の話が始まることもあります。写真から話を聞く進め方は、「古い写真から、まだ言葉が取れる」の記事でも紹介しています。
ふるさとを離れた事情には、無理に踏み込まない
ふるさとの話には、楽しい記憶だけでなく、つらい記憶がつながっていることもあります。家の事情で故郷を離れた、家族と別れて暮らした、大きな出来事で町の様子が変わってしまった。そうした話は、親にとって簡単に口にできるものではありません。
話の途中で親が黙り込んだり、話題を変えたりしたら、それ以上は深追いしないでください。「また気が向いたら聞かせてね」と伝えて、別の場所の話に移れば十分です。話さないことにも、親なりの理由があります。
反対に、親のほうから離れた日のことを話してくれたときは、口をはさまずに聞きましょう。聞いた話を書き留めるかどうかは、親に確かめてから決めると安心です。「このこと、書いておいてもいい?」の一言があるだけで、親も、話してよかったと思えるはずです。
一つの場所を一枚にまとめる、書き留め方の形
聞いた話は、一つの場所につき一枚にまとめておくと、あとで読み返しやすくなります。形はノートでも、スマホのメモでもかまいません。次の五つの欄を目安にしてみてください。
一つ目は「場所の名前」です。地名や店の名前が分からなければ、「川沿いの駄菓子屋」のように、親の呼び方をそのまま使います。二つ目は「いつごろの話か」。小学生のころ、十歳ごろ、など大まかで十分です。三つ目は「どんな景色だったか」で、建物や道、音やにおいなど、親が語った様子を書きます。四つ目は「そこでの出来事や、一緒にいた人」。五つ目が「親が言った一言」で、ここはできるだけ親の言葉どおりに残します。
書き終えたら、いちばん下に、聞いたあなたの感想を一行添えてください。「父が泳いだ川を、いつか自分も見てみたい」「母の通学路は、思っていたよりずっと長かった」。親の記憶とあなたの気持ちが一枚に並ぶと、ふるさとの話が、家族の記録になります。
全部の欄が埋まらなくても大丈夫です。空いた欄は、次に話すときの質問の手がかりになります。描いてもらった間取りや地図、訪ねたときの写真も、同じ場所の一枚と一緒にしておきましょう。
書いた一枚を、親に読んで聞かせてみるのも一つの方法です。自分の話が文章になったのを聞くと、「そうそう、それでね」と続きを話してくれる親もいます。
Q. 親が「田舎で、何もないところだった」と言うときは?
自分のふるさとを、特別な場所だと思っていない親は少なくありません。そんなときは、名所や大きな出来事ではなく、毎日の暮らしを聞いてみてください。「朝ごはんは何を食べていた?」「冬はどうやって暖まっていた?」といった小さな問いのほうが、答えやすいものです。
持ち物や場所から話を聞く進め方は、「親が『話すことなんて何もない』と言うとき、どう聞く?」の記事にまとめています。
Q. 地名が変わっていて、場所がはっきりしません
町の名前が変わっていたり、建物がなくなっていたりすることは、よくあります。はっきりしないまま、親の覚えている呼び方で書き留めてかまいません。「〇〇村と呼んでいたあたり」のように書いておけば、家族が読んでも、どの話か分かります。
正確な場所を突き止めることより、親がその場所をどう覚えているかを残すことのほうが大切です。記憶と今の地図が少し違っていても、それも親のふるさとの一部です。
Q. 帰省のときくらいしか、ゆっくり話せません
年に一、二度の帰省でも、一回に一つの場所の話を聞けば、記録は少しずつたまっていきます。帰省の前に、次に聞く場所を一つ決めておくと、短い時間でも話を始めやすくなります。家族が集まる時期の聞き方の工夫は、「年末年始の帰省で、親の話をどう聞き、どう残すか」の記事にまとめています。
ふるさとの料理や、行事のときの食べ物も、話の入口になります。台所での聞き方は、「親の料理と『家の味』を、言葉と一緒に残す」の記事も参考にしてください。
ふるさとの思い出を、一冊の言葉にまとめるには
聞いた話や描いてもらった図は、ノートやファイルにまとめておくのも一つの方法です。想い伝(おもいでん)は、いくつかの質問に答えるだけで、あなたが残した言葉を読みやすい一冊の本に整えるサービスです。家族の思い出や親への感謝などを、問いに答えながら書き進められます。本になるのは、あなたが書いた言葉そのものです。
書きかけの内容はお使いの端末に保存され、当社のサーバーには保存されないしくみです。今日は一つの場所の話だけ、次の帰省でもう一つ、というように、少しずつ書き足しながら仕上げることができます。
今日、ひとつだけ書いてみてください。「親が生まれ育った町」の名前を一行だけ。その一行から、まだ聞いていないふるさとの景色が、少しずつ見えてきます。
この記事について
想い伝 編集チーム(株式会社狼煙)。ご家族へ想いを残したい方に向けて、終活や家族の対話にまつわる話題を、やさしい言葉でまとめています。
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